企業におけるセキュリティの脅威は、外部からのサイバー攻撃だけでなく、従業員による内部不正という形でも現れます。内部不正は、情報漏洩や資産の不正利用といった深刻なリスクを伴い、企業に大きな損害を与える可能性があります。こうしたリスクに対処するためには、内部不正の早期発見が極めて重要であり、そのためにはデジタルフォレンジックが強力なツールとして役立ちます。本記事では、内部不正の早期発見におけるデジタルフォレンジックの役割について詳しく解説します。

1. 内部不正とは?
内部不正は、企業の従業員や関係者が不正行為を行い、企業の情報や資産を不正に使用することを指します。この不正行為には、次のような例が含まれます。
機密情報の持ち出し:従業員が会社の機密データを無断で外部に持ち出す行為。
不正なデータ操作:従業員がシステムやデータベースに不正アクセスし、データを操作する行為。
横領や財務不正:経理担当者が会社の資金を不正に操作する行為。
業務時間中の不正利用:社内システムやデバイスを私的に使用し、業務外の活動を行う行為。
内部不正は外部攻撃と異なり、従業員が企業のシステムにアクセス権を持っているため、発見が遅れることが多く、重大な損害に繋がるリスクが高いです。
2. デジタルフォレンジックの役割とは?
デジタルフォレンジックは、コンピュータシステムやデジタルデバイスから証拠データを収集、解析、保存するプロセスを指します。デジタルフォレンジックを内部不正の早期発見に活用することで、不正行為が起きた際に、迅速かつ正確な対応が可能になります。以下は、内部不正の検知におけるデジタルフォレンジックの役割です。
2.1 ログの収集と解析
内部不正を発見するために、システムログやアクセスログの収集と解析は不可欠です。特に次のようなログデータが重要となります。
ユーザーのアクセス履歴:従業員がどのデバイスにアクセスし、どのデータにアクセスしたかを追跡します。異常なアクセス時間や不正なデータへのアクセスがあれば、不正行為の疑いが強まります。
ファイル操作の履歴:機密データのコピーや削除、改ざんが行われた場合、その操作履歴を解析して不正行為の証拠を集めます。
ネットワーク接続履歴:外部サーバーやクラウドへの不審な接続が行われたかを追跡し、データが外部に送信されていないかを確認します。
2.2 リアルタイムのモニタリング
内部不正の早期発見には、リアルタイムのモニタリングシステムの導入が有効です。これにより、異常な操作や不正アクセスが行われた瞬間に警告が発せられ、即座に対策を講じることが可能になります。
ユーザー行動の監視:通常業務時間外のアクセスや、異常なファイル操作を監視し、即時にアラートを発するシステムを導入します。
異常検知システム:AIや機械学習を活用して、通常の業務パターンと異なる操作を自動的に検知することで、内部不正の兆候を早期に察知します。
2.3 証拠保全の徹底
内部不正が発覚した場合、後の法的手続きに備えて、証拠の保全が非常に重要です。デジタルフォレンジックでは、証拠の信頼性を維持するため、データを適切に保存し、改ざんされていないことを証明する手法を使用します。
ハッシュ値の使用:証拠データの完全性を保証するために、データの取得時にハッシュ値を計算し、取得後も同じハッシュ値を持つかを検証します。これにより、証拠が改ざんされていないことを確認できます。
チェーン・オブ・カストディ:証拠データが誰の手を経たか、いつ取得され、どのように扱われたかを詳細に記録することで、法的に有効な証拠として保全します。
3. 内部不正の早期発見が企業に与えるメリット
内部不正が発生するリスクに対処する上で、早期発見は企業に大きなメリットをもたらします。
損害の最小化:不正行為が長期間続けば続くほど、企業が受ける損害は大きくなります。デジタルフォレンジックを用いた早期発見により、被害を最小限に抑えることができます。
迅速な対応:内部不正が発見されると、迅速に対策を講じることが可能です。証拠が保全されていれば、法的対応や従業員への処分もスムーズに行えます。
コンプライアンスの強化:企業が法令や規則に準拠した形で不正対応を行えば、法的な問題に直面するリスクを軽減できます。デジタルフォレンジックによる証拠保全は法的な信頼性を確保する上で非常に重要です。
4. ケーススタディ:デジタルフォレンジックによる内部不正の早期発見
背景
ある大手製造企業で、機密データの漏洩が疑われたケースがありました。当初は外部からの攻撃を想定していましたが、ログ解析を進める中で、内部の従業員によるデータ持ち出しの可能性が浮上しました。
調査方法
調査チームはデジタルフォレンジックツールを用いて、特定の従業員のアクセスログを解析しました。解析の結果、その従業員が業務時間外に通常アクセスしないファイルを複数回にわたって開き、USBメモリにデータをコピーしていることが判明しました。また、同じ従業員が外部サーバーと不審な通信を行っていた痕跡もネットワークログに残されていました。
結果
デジタルフォレンジックによる解析結果に基づき、企業は速やかにその従業員への対応を行い、さらなるデータ漏洩を防ぐことができました。証拠が適切に保全されていたため、従業員の法的処分もスムーズに行われ、企業の損失は最小限に抑えられました。
5. 内部不正を未然に防ぐための対策
内部不正のリスクに対処するためには、早期発見だけでなく、未然に防ぐための対策も重要です。以下のような取り組みが効果的です。
厳密なアクセス制御:機密データへのアクセス権を厳しく管理し、必要最低限の従業員のみがアクセスできるようにします。
監視体制の強化:リアルタイムのログ監視や異常行動の検知システムを導入し、不正行為の兆候を早期に察知します。
従業員教育:従業員に対して、情報セキュリティや内部不正のリスクについての教育を定期的に行い、不正行為の抑止力を高めます。
まとめ
内部不正は企業にとって大きなリスクとなり得ますが、デジタルフォレンジックを活用することで早期に発見し、適切に対処することが可能です。ログ解析や証拠保全、リアルタイムのモニタリングなどを組み合わせた包括的なアプローチにより、企業は内部不正のリスクを軽減し、健全な業務環境を維持することができます。
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