防犯対策を考えるとき、多くの人がまず思い浮かべるのは防犯カメラやセンサー、施錠設備など「目に見える手段」です。しかし、こうした手段だけに頼るアプローチは、時に重大な失敗を招くことがあります。
防犯の本質は、適切な戦略と計画を立てることにあり、それがもたらす効果は計り知れません。今回は、手段先行の防犯対策による失敗例と、その教訓から得られた成功のポイントについて掘り下げます。
手段先行の防犯対策が招いた課題
ある病院では、近年の施設をターゲットにした事件を受け、工事会社に相談のもと防犯対策を進めることを決定しました。病院の入口付近にカメラを設置し、侵入検知センサーを導入するというものでした。これは、施設侵入を主なリスクと見なした対策でした。
しかし、導入から数か月後、院内で大声でクレームを入れ、職員や他の患者に威圧的で暴力的な行為をする人物が現れました。その場では職員が対応にあたり、最終的に警察を呼ぶことで事態は収拾しましたが、対応は長時間に及び、一部の診療業務が滞る事態となりました。他の患者や職員に与えた影響も小さくなく、結果として病院全体の運営に支障が出てしまいました。
このトラブルを受けて、防犯カメラの映像を確認したところ、当該人物が病院に出入りする様子は映っていたものの、院内での威圧的な行為は映像の死角に入っており、肝心な瞬間を十分に捉えることができていませんでした。また、数週間後に再度映像を確認しようとしたところ、保存期間が終了しており、データが消去されていることが発覚しました。
手段先行の問題点
病院では、この状況を受け、防犯対策の見直しを検討。カメラ設置時の工事会社とのやり取りを振り返る中で、以下の問題点が浮かび上がりました。
1. 目的の曖昧さ
施設の防犯対策として「侵入防止」を主目的にした結果、そのワードが先行してしまい、打ち合わせの時間が限られていたこともあり、どういった理由や想定で防犯対策を実施するかの議論が十分ではありませんでした。
2. リスクの洗い出し不足
病院に特有のリスク(患者や訪問者によるトラブル)を考慮しないまま、一般的な施設侵入リスクに基づいた防犯計画を採用しました。
3. 運用上の見落とし
カメラの設置場所が侵入防止が目的限定的で死角が多かったこと、映像の保存期間が短い設定になっていたことなど、運用面も踏まえ細部の仕様が考慮されていませんでした。
防犯対策の見直しと再発防止策
院内での議論を経て、病院は防犯対策をゼロから見直す方針を立てました。この過程で、外部の防犯コンサルタントの支援を受け、本来の目的を再定義しました。それは「職員と患者の安全を守ること」であり、施設の物理的な防犯だけではなく、人の行動に基づくリスク管理が重要であるという認識に至りました。
以下の具体的な再発防止策を講じました。
1. リスクの洗い出し
過去の院内トラブルや外部事例を分析し、患者や訪問者の行動に基づくリスクを特定。特に、待合室や診療室周辺でのトラブル発生リスクに重点を置きました。
2. カメラの適切な設置
入口だけでなく、待合室や診療室の周辺にもカメラを設置。死角を減らし、映像を高解像度で保存することで、後からの証拠保全を可能にしました。
3. トラブル対応フローの策定
トラブル発生時の対応手順を具体化し、職員向けのガイドラインとして文書化しました。さらに、対応フローに基づいた定期的な訓練を実施しました。
4. 職員の教育と意識向上
職員が適切にトラブルを察知し、対処できるように教育プログラムを導入しました。これにより、現場対応力が大幅に向上しました。
得られた成果
これらの対策を講じた結果、トラブル対応がスムーズになり、院内業務の中断や他の患者への影響が最小限に抑えられるようになりました。さらに、カメラ映像の有効活用が可能となり、後日の検証や外部機関との連携もスムーズに行えるようになりました。
また、職員の意識改革が進み、日常的に防犯意識を持って業務にあたる姿勢が浸透しました。これにより、トラブルを未然に防ぐ力も高まりました。
まとめ
手段先行での防犯対策は、目的を見失い、想定外のリスクに対応できないという問題を抱えています。一方で、戦略と計画をしっかりと立てた対策は、トラブルを未然に防ぐだけでなく、トラブル発生時の対応力を飛躍的に向上させます。
病院のような公共性の高い施設では、単なる防犯カメラやセンサーの導入だけでなく、施設特有のリスクを的確に把握し、それに応じた防犯計画を策定し、それに基づく訓練を実施することが不可欠です。安全を守るための本質的な対策とは何かを問い直し、真の安全を実現する防犯対策を進めることが重要です。
最後に
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