企業における社内不正や情報漏洩のリスクは年々増加しており、これに対応するためには、単に技術的なフォレンジック調査を行うだけでなく、適切な社内規則の整備が不可欠です。特に、社内規則がしっかりと整備されていない場合、不正が発覚した際にフォレンジック調査がスムーズに進行できず、さらには法的なリスクを抱えることにもなります。
本記事では、フォレンジックエンジニアとしての技術的視点と、行政書士としての法的視点を踏まえ、社内規則の整備とデジタルフォレンジック調査の連携について詳しく解説します。

1. 社内規則の整備が重要な理由
社内規則は、企業が従業員との間で法的に有効な関係を構築し、企業の資産や情報を保護するために不可欠です。特に、デジタルフォレンジック調査を実施する際には、従業員がその調査に対して協力し、必要なデバイスや情報を提供するための規則が整備されていなければ、調査が進められない可能性があります。
1.1 内部不正のリスク管理
内部不正は、従業員が機密情報を持ち出したり、会社の資産を不正に利用するケースが多く、これらの行為を防ぐためには、予め従業員に対して明確な規則を設けることが求められます。
従業員のデバイス使用に関する規則:従業員が会社のPCやスマートフォンを使用する際、その使用範囲や目的、またデバイスへの監視やフォレンジック調査が行われる可能性を明記することが重要です。
個人所有デバイス(BYOD)の利用規則:従業員が個人のデバイスを業務に使用する場合、それに関連するデータがフォレンジック調査の対象となる可能性があることを明示し、必要に応じてデバイスの提供や調査への協力義務を規定します。
1.2 法的リスクの軽減
社内規則がない、または不備がある場合、フォレンジック調査が法的に問題を引き起こす可能性があります。特に、従業員のデバイスやデータを調査する際にプライバシー権の侵害とされるリスクがあるため、規則によって調査への協力義務を明確にしておく必要があります。
2. 社内規則とフォレンジック調査の連携
デジタルフォレンジック調査と社内規則を効果的に連携させるためには、次のような重要なポイントを考慮する必要があります。
2.1 調査対象者の協力義務の明確化
社内規則には、従業員が不正行為や情報漏洩の疑いがある場合、デバイスの提供やフォレンジック調査への協力を義務づける条項を明確に含めるべきです。これにより、調査の円滑な進行が可能となり、従業員が協力を拒否するリスクを軽減できます。
雇用契約書:従業員が調査対象になった場合、業務用デバイスだけでなく、個人所有デバイスの提供やデータの調査に協力する義務を記載します。
就業規則:業務に関連するデータの消去や改ざん行為の禁止、調査の妨害行為を明確に禁止し、法的な処罰の対象とすることを規定します。
2.2 デバイスとデータの管理
デジタルフォレンジック調査においては、調査対象となるデバイスやデータを適切に管理することが重要です。社内規則においても、業務に使用するデバイスやデータの取り扱いに関して、従業員に遵守させるべき項目を明記します。
デバイスの持ち出し制限:業務デバイスの社外持ち出しを制限し、持ち出しが必要な場合は、事前に許可を取得する規則を設けます。
データの保存ルール:デバイスやクラウドストレージに保存されるデータの管理を徹底し、定期的にバックアップを取るなど、適切な保護措置を規定します。
2.3 プライバシー権とのバランス
従業員のプライバシー権を尊重しつつ、必要な場合にはフォレンジック調査を実施できるようにするためには、プライバシーと企業の利益保護のバランスを取った規則が求められます。
プライバシー通知:従業員に対して、業務用デバイスの使用中は監視対象となり得ることや、業務に関連する調査が行われる可能性があることを通知します。
同意書の取得:雇用時に、従業員がフォレンジック調査への協力や、業務用デバイスの監視に同意する旨の書面を取得しておくことが推奨されます。
3. ケーススタディ:社内規則を活用したフォレンジック調査の成功例
背景
ある企業で、従業員による機密データの漏洩が疑われました。企業は、当該従業員の社用PCおよび個人所有のスマートフォンの調査を行いたいと考えましたが、従業員がスマートフォンの提供を拒否する可能性がありました。しかし、企業は事前に就業規則と雇用契約書に、不正調査への協力義務と個人所有デバイスの提供を明記していたため、法的に問題なく調査を進めることができました。
調査の進行
フォレンジック調査により、従業員が社用PCからUSBメモリにデータをコピーし、個人のスマートフォンを使って外部に送信していたことが判明しました。社内規則に基づく調査協力義務があったため、スムーズに証拠を収集し、従業員に対する法的処置も迅速に行われました。
結果
事前に整備された社内規則により、企業は迅速に調査を行い、法的なトラブルなく適切な対応を取ることができました。このケースは、社内規則がフォレンジック調査の有効性を高める好例です。
4. 法的アドバイス:規則の作成と法的対応
行政書士としての視点から、企業が社内規則を整備する際の法的なポイントをまとめます。
規則の明文化:社内規則や雇用契約書における調査協力義務を明文化し、従業員に対して明確なガイドラインを提示します。
法律との整合性:個人情報保護法やプライバシー保護規制に準拠しつつ、企業の利益を守るために必要な条項を盛り込みます。
従業員教育:規則の内容や調査への協力義務について、定期的に従業員に教育を行い、ルールを理解させることが重要です。
まとめ
社内規則の整備は、デジタルフォレンジック調査をスムーズに進め、法的リスクを軽減するための重要なステップです。特に、従業員の協力を確保し、デバイスの提供や調査を適切に行うためには、事前に雇用契約書や就業規則に明確な条項を盛り込むことが不可欠です。四大法律事務所案件、BIG4監査法人案件、大手メーカー国際産業スパイ案件などで調査リーダーを務めた専門家が、フォレンジックエンジニアとしての技術的視点と、行政書士としての法的アドバイスを活かして、企業が法的リスクに備えるための効果的な対策を提供します。