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フォレンジック調査で得られた証拠の法的有効性を高めるための実践ガイド

デジタルフォレンジック調査は、企業の情報漏洩や不正行為を追及する上で欠かせない手段です。しかし、調査で得られた証拠が法的に有効でなければ、裁判での利用が難しく、最終的な追及が困難になります。証拠の法的有効性を高めるためには、技術的な手法に加えて、法的な要件を確実に満たすことが不可欠です。

本記事では、フォレンジック調査で収集した証拠を、法的に有効かつ信頼性の高いものにするための実践的なガイドを提供します。



1. 証拠の法的有効性とは?

法的手続きにおいて、証拠が有効であると認められるためには、その証拠が信頼性完全性を持ち、かつ適切な手続きを経て取得されたものでなければなりません。具体的には、以下の要件が満たされている必要があります。

  • 信頼性:証拠が正確であり、改ざんされていないこと。

  • 完全性:証拠が収集されてから提出されるまでの間、改ざんや紛失がなく、その管理過程が明確であること。

  • 適法性:証拠が法的に許容された方法で取得されていること。これには、プライバシー権や情報保護法規制への適合が含まれます。


2. 証拠の信頼性を確保するための技術的手法


2.1 イメージング(データのコピー)

フォレンジック調査では、調査対象デバイスのデータをそのまま取得するのではなく、イメージングによってデータのビットレベルでのコピーを作成します。この手法により、デバイス自体に手を加えず、証拠の取得時点での状態をそのまま保つことができます。

  • 手順:対象デバイスのハードディスクやメモリのビット単位でのコピーを作成し、オリジナルのデータが調査中に変更されないようにします。

  • 法的な利点:オリジナルデータを保持することで、法廷で「証拠の改ざんがなかった」と主張でき、法的に証拠の信頼性が高まります。


2.2 ハッシュ値による証拠の保全

ハッシュ値は、データの指紋のようなもので、証拠データの完全性を確保するために使用されます。データを取得した時点でハッシュ値を生成し、その後も同じハッシュ値を保持できれば、データが改ざんされていないことを証明できます。

  • ハッシュ値計算:証拠収集時にハッシュ関数(SHA-256やMD5など)を用いてデータのハッシュ値を生成します。このハッシュ値は後に法廷で証拠の完全性を証明するために使用されます。

  • 法的な利点:ハッシュ値は、データが取得時から変更されていないことを証明するため、証拠が改ざんされていないことを技術的に証明するのに役立ちます。


2.3 チェーン・オブ・カストディの確立

チェーン・オブ・カストディとは、証拠が誰の手を経て、どのように管理されてきたかを記録する手続きです。これにより、証拠が適切に保管され、改ざんされていないことを法的に示すことができます。

  • 管理手続き:証拠の取得から保存、解析、法廷提出までの全てのプロセスを文書化し、誰がいつどのように証拠にアクセスしたかを記録します。

  • 法的な利点:証拠の保管過程が明確であれば、証拠の信頼性が高まり、法廷での有効性が保証されます。


3. 法的に有効な証拠収集を可能にする社内ルールの整備

証拠を法的に有効な形で収集するためには、社内規則や就業規則の整備も不可欠です。特に、調査に対する従業員の協力義務やデバイス提供のルールが明確でない場合、証拠が適切に収集できない可能性があります。


3.1 調査協力義務の明文化

社内規則において、従業員が不正行為を疑われた際には、フォレンジック調査への協力義務やデバイス提供の義務を明確に記載しておくことが重要です。これにより、証拠を法的に有効な形で収集できる可能性が高まります。

  • 雇用契約書:従業員が会社の資産(PC、スマートフォンなど)に関連する調査に協力する義務を明記します。

  • 就業規則:業務用デバイスに対する調査やデータ提出義務を明確に定め、フォレンジック調査を円滑に進められるようにします。


3.2 プライバシー保護とのバランス

従業員のプライバシー権を尊重しつつ、企業の正当な利益を守るためには、調査対象となるデバイスやデータが適法に収集されることを保証する必要があります。

  • 同意書の取得:従業員からフォレンジック調査やデバイス提供への協力に同意を得る書面を事前に取得することで、プライバシー権の侵害を避けつつ、法的に有効な証拠を得ることができます。


4. 法的に無効となる証拠のリスクと対策

フォレンジック調査によって得られた証拠が法的に無効とされるリスクも存在します。例えば、違法な手段で取得された証拠や、プライバシー権を侵害した形で収集された証拠、保全のプロセスで改ざんが可能であると指摘されるような証拠は、裁判所で無効と判断されることがあります。


4.1 違法に取得された証拠の無効化リスク

証拠が法的に許可されていない方法で収集された場合、その証拠は特に刑事訴訟においては「違法収集証拠排除法則」により無効となる可能性があります。これを避けるためには、法律に基づいて証拠収集を行い、適切な手続きを踏む必要があります。

4.2 データの改ざん・漏洩リスク

証拠データが調査中に改ざんされた場合、法的な信頼性が失われます。これを防ぐためには、先述したハッシュ値による証拠保全やチェーン・オブ・カストディを徹底することが重要です。


5. ケーススタディ:法的に有効な証拠収集の実例


背景

ある大手製造業の企業で、従業員による機密情報の漏洩が発覚し、フォレンジック調査が開始されました。企業は業務用PCと個人所有のUSBメモリに関する調査を行うため、従業員の協力が必要でした。


調査の進行

企業は事前に従業員からデバイス提供への協力同意書を取得しており、法的に問題なく証拠収集が進められました。フォレンジック調査では、ハッシュ値を使用してデータの完全性を確認し、チェーン・オブ・カストディの手続きを徹底しました。


結果

収集された証拠は、裁判所で有効な証拠として認められ、従業員に対する法的措置が取られました。事前の規則整備と、証拠保全の徹底が成功のカギとなりました。


まとめ

デジタルフォレンジック調査で得られた証拠を法的に有効にするためには、技術的な手法と法的な手続きを適切に連携させることが不可欠です。イメージングやハッシュ値の活用、チェーン・オブ・カストディの徹底に加え、社内規則の整備によって、証拠の信頼性と完全性を保証することができます。これにより、裁判所で有効な証拠として認められ、不正行為に対する適切な法的措置を取ることが可能となります。


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