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フォレンジック調査における削除データの復元の限界:法律的な対応とログ収集ツールで補完

デジタルフォレンジック調査において、削除されたデータを復元することは、かつては効果的な手法でした。しかし、近年のデータ保存技術やオペレーティングシステム(OS)の進化により、削除データの復元が技術的に困難になるケースが増えています。削除データそのものを復元することが難しい場合、データ漏洩や不正行為の直接的な証拠を入手するのは厳しい状況です。

この記事では、データ復元の技術的限界に加えて、その限界を法律的な対策ログ収集ツールを活用して補完する方法について解説します。



1. 削除データ復元の技術的限界

1.1 SSDとTRIMコマンドの影響

従来のHDDでは、削除されたデータは上書きされるまで残っていることが多く、フォレンジックツールを使えば復元可能なことが多くありました。しかし、近年主流となっているSSD(ソリッドステートドライブ)では、データ削除の仕組みが異なり、削除されたデータが速やかに物理的に消去されます。これにより、データ復元が極めて難しくなっています。


1.2 暗号化とデータ削除

BitLocker(Windows)やFileVault(macOS)のような暗号化技術が広く使われており、デバイス全体が暗号化されている場合、データが削除されると暗号鍵も破棄されるため、データ自体は残っていても解読が不可能となります。これにより、フォレンジック調査でのデータ復元が実質的に不可能になることが多くなっています。


1.3 専用データ消去ツールの使用

さらに、企業や個人がデータ消去専用ツールを使用するケースも増えています。これらのツールは、データをただ削除するだけでなく、複数回上書きすることで、データ復元を技術的に不可能にします。例えば、**Darik's Boot and Nuke(DBAN)**などのツールは、デバイス上のデータを徹底的に消去します。


2. 法的対策による補完

技術的に削除データを復元することが困難な場合、法的な対応が重要な役割を果たします。直接的なデータ復元ができなくても、不審な操作や痕跡が残っている場合、それを基に法的に適切な対応を取ることが可能です。


2.1 個人デバイス回収のための規則整備

削除データが復元できない場合でも、情報漏洩や不正行為を示す「不審な操作の痕跡」がフォレンジック調査で見つかることがあります。例えば、データ消去専用ツールの使用や、意図的にデータを削除した操作履歴がログに残っている場合、これを根拠として、個人デバイスの回収やさらなる調査を法的に進めることができます。

このために、企業は就業規則雇用契約書に、業務で使用する個人デバイスについての調査やデバイス提出義務を明確に規定しておくことが重要です。これにより、不正行為が疑われる場合に法的に正当な手続きを踏んで、個人デバイスを調査・回収できるようになります。


2.2 合意書の作成

個人デバイスの利用に関して、従業員との間でBYOD(Bring Your Own Device)ポリシーを合意し、デバイスが業務上の調査対象となる可能性があることをあらかじめ従業員に理解させることが大切です。事前に明確なポリシーを策定し、合意を得ておくことで、後からの法的トラブルを防ぐことができます。


3. ログ収集ツールによる補完

技術的にデータ復元が難しい状況を想定した場合、事前にログ収集ツールを導入しておくことで、不正行為や情報漏洩の間接的な証拠を確保することが可能です。


3.1 ログ収集の重要性

データそのものが復元できなくても、ログ収集ツールを使って、不審な操作やデータ消去の痕跡を記録することができます。これには、ファイルが削除された日時、誰が操作したか、どのアプリケーションが使われたかといった情報が含まれます。削除されたデータが直接復元できなくても、これらのログは強力な証拠として活用できます。


3.2 ログの可視化とアラート機能

近年のログ収集ツールには、可視化機能アラート機能が備わっており、特定の不審な操作が行われた際に、即座に管理者に通知されるような仕組みが整っています。例えば、大量のデータが突然削除された場合や、データ消去ツールが実行された際に、リアルタイムでアラートが出ることで、迅速に対応することが可能です。


3.3 具体例:ログ収集ツールの使用

ある企業では、**SIEM(セキュリティ情報イベント管理)**ツールを使用し、従業員の操作ログをリアルタイムで収集していました。フォレンジック調査ではデータそのものが削除され復元できませんでしたが、ツールのログに基づき、情報漏洩の痕跡を隠すために意図的にデータを消去した操作履歴が見つかりました。この証拠をもとに、さらなる調査が進められ、最終的に情報漏洩が明らかになりました。


まとめ

デジタルフォレンジックにおける削除データの復元は、技術的な進化によってますます難しくなっていますが、法律的な対応ログ収集ツールを適切に活用することで、不正行為や情報漏洩の追跡が可能です。復元が困難な状況であっても、不審な操作の痕跡やログデータを活用し、事前に適切な規則やツールを整備しておくことが、企業の情報セキュリティ対策において重要な役割を果たします。


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TEL 050-5806-4141


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