病院内で刃物を持った人物や暴れる人物が現れると、従業員や患者の安全を確保することが最優先となります。このような緊急時に効果的な対応を行うためには、防犯機器の活用だけでなく、防犯計画やマニュアルの整備、そして訓練を行っておくことが不可欠です。本コラムでは、病院内での緊急時対応に適した防犯機器と、その有効性や注意点、さらに計画や訓練の重要性について解説します。
1. さすまた(防犯用捕具)
有効性:
さすまたは、相手との距離を保ちながら攻撃を防ぐことができる防犯器具です。特に刃物を持った人物に対しては、直接的な接触を避けつつ制圧できるため、比較的安全性が高いと言えます。
複数人で対応することで効果を発揮します。1人では押さえつける力が不足する可能性があるため、複数人で協力しながら相手を取り囲む必要があります。
現在は使用後に相手を制圧を継続する機能のあるさすまたもあり、施設の戦略や計画に応じて選定することができます。
注意点:
訓練が必要: さすまたを効果的に使うためには、定期的な訓練が欠かせません。防犯マニュアルに使い方を明記し、シミュレーションを通じて使いこなせるようにしておきましょう。緊急事態に即座に使用できるような保管場所の確保も重要です。
役割分担: 緊急時に誰がさすまたを使うか、どのように動くかをあらかじめ決めておくことが重要です。事前に訓練を行い、役割分担を明確にしておくことで、迅速かつ安全な対応が可能となります。
2. 催涙スプレー
有効性:
催涙スプレーは、攻撃者の視界を奪い、呼吸を困難にさせることで一時的に動きを封じることができます。状況によっては刃物を持った人物に対しても独力で対抗できる非常に強力な手段です。特に成分が強いタイプは、相手を長時間無力化することができるため、緊急時に非常に有効です。
注意点:
周囲への影響: 病院内で使用する際は、他の患者や従業員に与える影響を考慮する必要があります。特に呼吸器に問題がある患者がいる場合、催涙スプレーの使用は慎重に検討するべきです。施設の特性によっては手段から除外することも検討する必要があるかもしれません。
使用後の対応: 催涙スプレーを使った後の対応も重要です。時間の経過により回復するため、使用後はすぐに安全な場所へ避難するか、複数人でさすまたで制圧を続けるなど、緊急時の行動計画に従って動くことが求められます。
厳重な管理: 催涙スプレーは管理方法を誤ると日常業務をストップさせるぐらいの大きな影響があります。現に小学校などでは催涙スプレーに対するいたずら等で数十人規模の児童が病院に運ばれる事故が複数回起きています。厳重かつ適切な管理が求められます。
訓練・計画: 催涙スプレーを使うタイミングや使用後の対処法、管理方法を、防犯マニュアルに明記し、訓練で従業員が慣れておくことが大切です。
3. 身の回りの机や椅子の活用
有効性:
机や椅子は、その場で即席の防御壁として使える便利なアイテムです。相手との距離を保ちながら、盾として使うことで、刃物などの攻撃から身を守ることができます。また、椅子を相手に向けて突き出すことで威嚇効果を持たせることも可能です。
注意点:
防御を重視する: 椅子や机を攻撃に使おうとするのではなく、防御用として使用することを心掛けましょう。
持ち上げられるものを選ぶ: 重すぎる机や椅子は持ち上げるのに時間がかかるため、緊急時に使いやすいものを普段から意識しておくと良いです。
訓練・計画: 机や椅子を防御用に使う方法も防犯訓練で取り入れ、いざという時に自然と使えるようにしておきましょう。
4.消火器の活用
有効性:
消火器は通常、火災に備えるための設備ですが、緊急時には相手の視界を奪う目的で使用することができます。消火器から噴射される粉末や二酸化炭素は一時的に相手の視界を遮り、攻撃を中断させることが可能です。また、消火器自体の重さや大きさを利用して相手を威嚇したり、防御に使うこともできます。
注意点:
誤用に注意: 消火器は本来、防火設備として使用するものです。緊急時以外での使用や無闇に使うことは避けるべきです。また、粉末や二酸化炭素が広範囲に広がるため、周囲にいる人々への影響にも注意を払う必要があります。また、訓練の中に防犯としての消火器の使い方を組み込むことは難しく、効果を実感しにくいため、あくまで他の手段がない場合は消火器を活用することもできるといった意識にとどめておくことも重要です。
定期的な点検: いざという時に使えないと意味がないため、定期的な点検を行い、消火器が正常に作動することを確認しておきましょう。
5. 高輝度LEDライト(フラッシュライト)
有効性:
強力なLEDライトを使用して相手の視界を奪う防犯機器です。暗い場所や夜間に限らず、緊急時に効果的です。強力な光を相手に向けることで、一時的に視界を奪い、相手の動きを制限することができます。威嚇効果もあるため、相手がひるんで逃げる可能性が高まります。
注意点:
光を使った一時的な抑制手段であるため、長時間の制圧には向きません。あくまで相手の視界を奪って逃げる、スキを作る、助けを呼ぶための手段と考えて使用することが重要です。
強い光を照射するため、使い方を間違えると周囲の人にも影響を与える可能性があります。
6. 捕獲ネット(ネットランチャー)
有効性:
相手を絡め取るためのネットを発射する防犯器具です。相手の動きを封じることができるため、警備員や一部の防犯業者で利用されています。突発的な動きをする相手に対して効果的に動きを封じることができます。複数人で協力して使うことで、より高い制圧効果が期待できます。
注意点:
捕獲ネット(ネットランチャー)は使い方に慣れが必要で、訓練なしで使用すると効果を発揮しにくい場合があります。射程のイメージがつきにくく、説明書に記載している射程よりも短いケースがあり、さらに単発での使用しかできないため、リスクも伴います。使用できる場面や環境が限られるため、事前にシミュレーションしておくことが重要です。さすまたや他の制圧機器との併用を検討しましょう。
防犯計画とマニュアル・訓練の重要性
いかに優れた防犯機器を用意していても、計画やマニュアルが整備されていなければ、緊急時に適切な対応を取ることは難しいでしょう。防犯機器の効果を最大限に発揮するためには、事前に以下の準備を行うことが重要です。
防犯計画の策定: 病院内のリスクを想定し、どのような状況でどの防犯機器を使用するかを明確にする防犯計画を策定しましょう。
防犯マニュアルの整備: 各機器の使い方や緊急時の対応フローを明記した防犯マニュアルを作成し、従業員全員に周知させておきます。
定期的な訓練: 訓練を通じて、従業員が防犯機器の使い方を実践的に学ぶことで、緊急時に適切な対応が可能となります。訓練は定期的に行い、いざという時に備えましょう。
まとめ:防犯機器と計画・訓練の連携で安全な環境を実現
緊急時に防犯機器を使うだけでは、必ずしも状況を完全にコントロールできるわけではありません。防犯計画やマニュアルの整備、そして定期的な訓練を通じて、従業員全員が緊急時に迅速かつ適切に対応できる体制を築くことが、病院全体の安全性を高めるために不可欠です。
各防犯機器の有効性や注意点を事前に理解し、実際に使う場面を想定した訓練を行うことで、従業員一人ひとりが防犯対策の一部となり、トラブルに対する初動対応をスムーズに行えるようになります。特に病院のような公共施設では、多くの人が関わるため、計画的な準備が被害の拡大を防ぐために非常に重要です。
効果的な防犯対策は防犯機器だけではなく、それらを活用する人の意識と行動によって成り立ちます。防犯計画、マニュアル、訓練を組み合わせ、より安心で安全な環境を構築していきましょう。
最後に、SIPでは、病院をはじめとする各施設向けに、防犯対策やカスタマーハラスメント対策を総合的にサポートしています。元警察官や専門家の経験を活かし、現場の状況に即した最適なソリューションを提供します。また、経験則だけではなく、実践理論に基づいた効果的な提案により、お客様の安全に貢献します。私たち独自のフレームワークを用いて、お客様のニーズに合わせた防犯戦略・計画・マニュアルを一緒に構築し、それらを基にした具体的な施策の提案、従業員教育などにより、施設全体の安全を強化するお手伝いをいたします。防犯やカスタマーハラスメント対策に関するご相談は、お気軽にお問い合わせください。
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