セキュリティインシデント後の法的手続きとフォレンジック調査の連携
- secinnovpjt
- 2024年10月24日
- 読了時間: 6分
セキュリティインシデントが発生した際、迅速かつ効果的な対応が求められます。しかし、単に技術的な対策を講じるだけでは不十分であり、法的手続きとも密接に連携する必要があります。特に、証拠を適切に収集・保全し、法的に有効な形で処理するために、デジタルフォレンジック調査が重要な役割を果たします。本記事では、セキュリティインシデント後の法的手続きとフォレンジック調査の重要な連携について解説します。

1. セキュリティインシデントとは?
セキュリティインシデントは、企業や組織の情報システムに対する不正アクセスやデータ漏洩、内部不正など、組織のセキュリティを脅かす事件や事象を指します。主なインシデントには次のようなものがあります。
サイバー攻撃:外部からの攻撃により、システムが侵害され、データが漏洩または破壊される。
情報漏洩:従業員による意図的または偶発的な機密情報の漏洩。
内部不正:内部の従業員による不正アクセスやデータの持ち出し。
これらのインシデントに対応する際、法的リスクや法的責任が発生するため、法的な視点からの対策が求められます。
2. デジタルフォレンジック調査の役割
デジタルフォレンジック調査は、セキュリティインシデント後に証拠を収集し、解析し、法的に有効な形で保存するプロセスです。この調査は、インシデントの原因や侵害された範囲を明らかにし、法的手続きの根拠となる証拠を提供するために不可欠です。
2.1 証拠収集の重要性
フォレンジック調査では、システムログ、ネットワーク接続履歴、データアクセス履歴などのデジタル証拠を収集します。これらの証拠は、以下のような目的で使用されます。
法的手続きにおける証拠:インシデント後に民事訴訟や刑事告訴を行う場合、法的に有効な証拠が必要です。フォレンジック調査により、証拠の信頼性と完全性が担保されます。
原因特定と責任の追及:インシデントの発生原因を特定し、どのように侵害が行われたかを明確にするための情報を提供します。
2.2 チェーン・オブ・カストディの確立
法的手続きにおいて、証拠が改ざんされていないことを示すため、チェーン・オブ・カストディ(証拠の管理手順)の確立が不可欠です。これは、証拠の収集から保全、解析、提出までの全ての過程を文書化し、証拠の信頼性を保証するプロセスです。
証拠の追跡管理:誰が、いつ、どの証拠にアクセスしたのかを記録し、証拠が適切に扱われたことを示す。
法的証拠としての完全性:フォレンジック調査で取得された証拠は、ハッシュ値を使って改ざんがないことを確認します。これにより、証拠としての有効性が維持されます。
3. セキュリティインシデント後の法的手続きの流れ
セキュリティインシデントが発生した場合、法的手続きは迅速かつ慎重に進める必要があります。法的手続きは、フォレンジック調査の結果をもとに進行し、次のステップが取られます。
3.1 インシデント報告と調査開始
インシデント発生後、まず企業内でインシデントの報告が行われ、フォレンジック調査チームが調査を開始します。同時に、必要に応じて法的機関にインシデントを報告することもあります。
法的報告義務の確認:特に上場企業の株主総会などで対応が求められる場合、限られた時間内に適切な報告を行わなければなりません。
内部調査の開始:フォレンジック調査チームは、証拠を収集し、インシデントの全体像を明らかにするためにシステムやデバイスの解析を行います。
3.2 証拠の保全と法的対応の準備
インシデントの証拠が収集されると、次に法的手続きに向けて証拠が適切に保全されます。これには、データのコピーやログの取得、証拠の改ざん防止が含まれます。
デジタル証拠の保全:フォレンジック調査の結果、得られたデジタル証拠は、安全に保管され、裁判所で有効な証拠として提示できるようにします。
法的文書の作成:示談書や訴訟に必要な法的文書を準備します。フォレンジック調査の結果を基に、具体的な損害額や責任の所在を明らかにします。
3.3 法的手続きと調査の連携
法的手続きが進行する中で、フォレンジック調査の結果が重要な証拠となります。特に、次のような場面で調査結果が活用されます。
訴訟や刑事告訴:フォレンジック調査で集められた証拠が、裁判における証拠として提出され、加害者の特定や賠償額の算定に使われます。
示談交渉:法的手続きの前に、当事者間で示談交渉が行われる場合、フォレンジック調査の結果をもとに、損害の範囲や責任の明確化が行われます。
4. ケーススタディ:セキュリティインシデント後の法的対応とフォレンジック調査の成功例
背景
ある大手企業で、従業員による機密情報の漏洩が疑われたケースが発生しました。インシデント発生後、フォレンジック調査チームが調査を開始し、従業員が外部USBデバイスを使用して、会社の機密情報を持ち出していた証拠を収集しました。
調査と法的手続き
フォレンジック調査によって、従業員が複数回にわたってデータにアクセスし、USBメモリにコピーしていたことが判明しました。さらに、ネットワーク接続履歴から、持ち出されたデータが外部のクラウドストレージにアップロードされた痕跡も確認されました。
調査結果に基づき、企業は速やかに法的手続きを開始し、従業員に対して民事訴訟を提起しました。証拠が適切に保全されていたため、裁判において証拠が有効と認められ、企業は賠償金を勝ち取ることができました。
5. セキュリティインシデント後の対応策と予防策
セキュリティインシデント後の法的手続きとフォレンジック調査が重要であると同時に、企業が将来のインシデントに備えるためには、予防策の整備が不可欠です。
インシデント対応プロトコルの整備:セキュリティインシデントが発生した場合に備え、迅速に対応できる体制を整備します。インシデント対応プロトコルには、フォレンジック調査の手順や法的対応の準備が含まれます。
ISMSの取得:国際的に標準化された運用を導入します。
予防法務:社内不正などが発生する抑止力となる就業規則や雇用契約書を作成します。これらの存在は今後のインシデント発生後にも強力な武器となります。
従業員教育:従業員に対して、セキュリティポリシーや情報漏洩リスクに関する教育を定期的に行い、内部不正を防止します。
ログ管理と監視システムの導入:システムログやアクセス履歴を定期的に監視し、異常が発生した場合には即座に対応できるような体制を構築します。
まとめ
セキュリティインシデント後の法的手続きとフォレンジック調査の連携は、インシデントの適切な対応と法的リスクの軽減において非常に重要です。証拠の収集、保全、法的手続きへの適切な活用が、企業の信頼性と損害の最小化に寄与します。将来のインシデントに備え、包括的なセキュリティ体制を整え、迅速な法的対応を可能にすることが重要です。
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